「生命」元川



僕は仕事柄、鳥たちをよく見かける。

スズメにカラス、ムクドリ、サギ、ツバメなど。小さな虫や、ミミズ、カエル、時にはネズミなどを食べている。

ある時、夫婦と思われる2羽のムクドリと、小さな雛のムクドリが3羽、農場を歩いていた。雛鳥を見たのは初めてだった。

多分、まだ産まれて間もないのだろう。飛べなそうであり、雛鳥たちはヨチヨチ歩いていた。その姿を親鳥たちが見守るようにしていた。

それを見て僕は頬が緩む。朝からいい気分だった。
そこにカラスが何十羽と集まってきた。ムクドリの親鳥は警戒し泣き叫んでいた。雛鳥たちは相変わらずヨチヨチと、バラバラに歩いている。

その時、1羽のカラスがサッと飛び出し、あっという間に1羽のムクドリの雛鳥を咥えて飛び去った。

その後、少し離れた電信柱の頂上に止まり、雛鳥を食していた。

ムクドリの親鳥は更に泣き叫び、カラスが近寄らないように飛びながら警戒をする。

僕は思わず親鳥たちに「何やってんだよ!子供を守れよ!」と声に出していた。独り言だ。

しばらくムクドリはカラスを警戒していたが、それでもカラスは何十羽といる。守り切れない。残りの2羽の雛鳥も連れ去られ、食べられしまった。

我が子を探しているのか、それとも守り切れなかった自分を悔いているのか、怒りをカラスに向け、大声で泣き叫び、時折カラスを攻撃していた。

僕もやりきれない気持ちになり、カラスに敵意を向けたとき、ふと気付いた。

「ムクドリに親身になり、カラスを敵視してしまっている自分がいる」と。

カラスはただ生存本能のため捕食しただけであり、危険と分かりながらもムクドリが農場に足を運んだだけである。

その事実に僕は色を付け見てしまっていた。こうやって偏見が始まるのだろう。

ただムクドリの悲しげな顔は、目に焼き付いている。

0コメント

  • 1000 / 1000