「細部に神は宿る」佐古田




「この人は、この店は、別格だ」

自身の五感を清潔な風が吹き抜けていく。そんな経験はないだろうか。これだけ情報が溢れる時代、真似をすれば何でもそれなりのモノは用意できてしまうが、何かが決定的に足りない。決定的に違う。到底真似できないその差は一体なんだろう。

【昭和の店に惹かれる理由 井川直子著】

この本にはそんな【別格】を探るヒントが記されている。第一章 とんかつとんきの型には次のような言葉があった。

「病院の清潔さと、神社やお寺の清潔さは違います」P15

細部に神が宿る。そんな細部について、飲食店様を通して書かれた本である。その細部とはとても一言では言い表せない。安っぽい言葉になってしまうが愛かもしれないし、覚悟かもしれない。長い時間と「則天去私」の精神が、お金をつぎ込んでも作ることができないお店として現れ、人々の憩いの場になっていく。

私も子供の頃親によく言って聞かされた言葉が
「細部に神は宿る」だ。
人の親になった今でも「細部」にこそ自分の弱い部分が滲み出てしまうと気を付けている。人を見送る間際、電話での気遣い、言葉の選び方…。あげればキリがないが、細部にこそ絶対的な「何か」を感じるのではないだろうか。

本の話題に戻ろう。
昭和にはこのようなお店が、人が、沢山存在したのだろう。大衆の中にあり、有名になろうとか一番になってやるといった自己執着から離れたお店の存在。そこには、お店と「同じ顔」をした店主がいるはずだ。

読み進めるほどに劣等感を感じてしまうほど、シビれるような美意識に出会える本である。


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