第一回 「本」
苦い現実に耐えかね、言葉を探した経験があるだろうか。言葉に痛みを理解して欲しくて、書籍と眠る夜は無いだろうか。これを君に打ち明ける。
本を有益な薬だと勘違いしていた。それは己の要求しかない生き方と、どこか似ている。都合を相手に押し付ける行為は、コトバに眠る著者の魂も辟易して隠れてしまうに違いない。活字を下僕のように扱ってはならない。
もし、きみが言葉と信頼関係を深めたいのなら苦しみに打たれることを勧めたい。この年寄りめいた格言は今やっと真実のように思える。無意味とも思えるこの熟成過程が、窓をひらいてくれる。
往復する語らいの場がそこに現れる。もう何処か遠くに行く必要はない。全身で感じ、清き広場にコトバを招き入れてほしい。そこには、きみが触れたことのない静寂が見つかるだろう。苦しみはもう一人の自分の姿ではなかったか。
「不幸を託つ者に慰めあり」
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2018.02.28 11:44