匿名「眠る」
このテーマが4月の連載記事テーマとなって、何を書こうか考えていた矢先に、個人的に大変ショッキングな訃報が飛び込んできた。
2018年4月3日。日高晤郎さんがお亡くなりになった。北海道で35年にわたって、ラジオ番組のメインパーソナリティーを務めてこられた御方だ。市川雷蔵さんと勝新太郎さんに育ててもらったと自らのルーツを語り、延々と二人(市川雷蔵さんと勝新太郎さん)の伝説を語り続けた、恩を大切にする、非常に仁義に篤い御方だった。
毎週土曜日8:00から17:00。9時間の生番組。「日高晤郎ショー」と題した番組において、歯に衣着せぬ物言いで、迫力ある語りを展開。紅白歌合戦を激しく糾弾する。政治の問題を一刀両断にする。芸能の話題も、映画などエンターテイメントのことも、出版不況のことも、世の中のあらゆる体たらくをバッサリと切って捨てる。世の大人の至らなさに、憂いの念いを語り続けた。一方で、歌を心の底から愛しておられ、心通じる歌手のことはとても大切にした。その中には、美空ひばりがいて、天童よしみがいて、吉幾三がいて、五木ひろしがいて、その他の才能溢れるまさに売り出し中の歌手がいる。歌手のことを歌人(うたびと)と言い、歌が代弁する生命の響きに、明るい未来の可能性を見出していた。
70を過ぎて尚、エッチな一面を見せることもあり、それがまた人間臭くて、好かれる要素だった。垣根を感じさせないお人柄もあり、皆が日高晤郎さんを慕って、「晤郎さん」と呼ぶ。
晤郎さんは、ご自身のことを話芸人(わげいにん)と言っていた。テレビなどで見る芸人とは全く違う、本物の芸人、しかもおそらく世に唯一人の、話芸人だ。番組のリスナーのことは、「お客さま」と言う。スピーカーを通して、スタジオの一体感を本当に大切にしておられる様子がよく分かった。年若いディレクターさんや、ケータリングを運んでこられるスタッフの方たちの不出来に対しても、愛情をもった厳しい叱責の声が、容赦なく飛び交う。それは、おもてなしの心で作られた「日高晤郎ショー」の空気を乱すことを許さないという、揺るぎない態度だった。そして叱った後は必ず、笑いを入れる。喜怒哀楽の波を縦横無尽に起こす話しぶりは、まさに話芸人そのものだった。
日高晤郎さんのことは、永業塾の中村信仁塾長が師事しておられるということで知った。『高瀬舟』の朗読や、『外郎売り』を覚えると良いということを中村塾長から聞いて実践しているのも、元をたどれば日高晤郎さんの教えであった。radikoというアプリで北海道のラジオ番組が聴けることを知り、以来約5年に渡って、私の毎週土曜日の配送の仕事の傍らに、常に晤郎さんがあった。土曜日の仕事が楽しみだったのは、晤郎さんの番組があるからだった。もうあのお声が聴けないと思うと、本当に本当に、寂しい。
「安らかにお眠りください」。
人は、起きる為に眠る。晤郎さんは、眠っているはずなんかない。あちらの世界でいよいよイキイキと、語り続ける。そしていつも私たちと共にある。生前、と言うではないか。今までが、生まれる前。安らかに眠るとは、永眠とは、生前とは。共にいざ行かんとすることだ。
御冥福をお祈り申し上げます。
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