社説 ▲おとな▼
名古屋市を東西に貫く地下鉄、東山線。その東端からさらに先を行く、リニモというモノレールがある。言わずもがな、リニアモーターカーの略でリニモである。その沿線にいくつか大学があり、通学手段として便利が良い。
今日。4月3日。朝。通勤に電車を利用することが滅多に無い筆者だが、今日は珍しく電車通勤である。そこで異様な風景を見た。スーツ姿の若者たち。傍らには、キレイに着飾り、お化粧を普段より美しく施した40代後半から50代の女性たちがいた。駅のホームはごった返しだ。一体何があるのだろうかと一瞬思ったが、すぐに答えが分かった。大学の入学式である。噂には最近の大学の入学式には親が同席すると聞いていたが、実際に目の当たりにすると、驚きを通り越して唖然としてしまった。異様な風景と書いたが、これは珍妙な風景と書いた方が適しているかもしれない。
たまたまかもしれないのだが、私が見た親子ペアは、男子とその母、という組み合わせが圧倒的に多かった。そこで思ったことーー大学の新一年生の男子とは、かくも可愛らしいお顔立ちか。そう思わされたのには、明らかにお母さんと一緒にいることが起因している。彼らを男子と呼ぶのも憚れる。男の子、という呼称が彼らには相応しい。
一体どうしたことだろう。18,19の男が大学の入学式に、母を連れて行くのだ。全く理解出来ない。しかしその母の方も満更でもない様子で、ここぞとばかりに着飾り、まるで自分が主役であるかのような存在感を見せつけてくる。子供と一緒に居なければ、どこかのナンパ師にでも声を掛けられそうな出で立ちである。最近のお母さま達は、髪は少し茶色がかってツヤがあり、肌も瑞々しくてハリがあり、お美しいのだ。化粧品会社の不断の努力の賜物である。全く男性に優しい世の中である。いやはや話が脱線した。電車の中で脱線とは。不謹慎なジョークを今、書いている。元に戻そう。
「政府は13日の閣議で、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案を決めた。成立すれば、民法が制定された明治時代から続く「大人」の定義が変わる。政府は今国会で成立させ、2022年4月1日の施行をめざす。」( 日本経済新聞3/13政治面より。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28037280T10C18A3MM0000/ )
私がリニモの中で見た“男の子”は、民法が改正されるとするならば、法律上は大人になる。大人とは、あるいは子供とは、一体何だろうか。子供の大学の入学式に着飾り、美しく化粧を施して前面に出るあの大人たちの方が、よっぽど子供じみて見える。
「おとな」という音が、虚しく響く。大人は昔「たいじん」と呼ばれ、小人(しょうじん)に対して、徳の高いりっぱな人、度量のある人、大人物、という意味で用いられた。かたや現代の大人は如何に。同じリニモに乗り合わせていたほかの大人たちを見ると、皆一様にスマホでゲームに興じていた。もしかしたら、あの大学新一年生の“男の子”は何も悪くないし、何も変では無いのかもしれない。然るべくして育ってきた、そのままの姿。現代において、大人と呼ばれる子供たちが生み出した、子供と呼ばれる新しい大人たち――いよいよ日本では法律上で大人とされた人たちが、真に“総子供化”する日が遠くない。憂いて筆者は、車内で読書に耽って、到着を待つことしか出来なかった。おとなって何ですか?今日も問いを持って、いざ仕事に行かん。
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